出たとこ勝負




11/12/**記
MariaファミリーとBadaiファミリーは仲が良くいつも一緒にいる、旦那同士が兄弟である、その旦那達の実のお姉さんBudanのファミリーは彼女らとは離れて暮らしている、しかし喧嘩とかどちらかが嫌っているとかが原因ではない、3人は今年ほぼ同時に出産した。

Mariaファミリーの子供は小さくやせぎす、目玉がちょっと飛び出していて健康そうには見えない、そして親指の外側にもう一本別の指が生えている、ある人の節では『妊娠中にカニをたくさん食べ過ぎたんだ』これが原因で子供に爪が生えて出てきたそうだ、あまり当てにならないが、もっともらしい事を言う人もいる『あれはだんながシャブ中だからネ〜、奇形が生まれるのも当たり前さ』、現にMariaのだんなは今年の10月シャブで捕まり刑務所暮らしの真っ最中、後4年は出てこれない。

そう言ってもBadaiのだんなも去年同じ罪のお勤めを終わらせて戻ってきたのだがBadaiファミリーの子は大きく丸々とふとっていて健康そうである、Budanファミリーの子供は全身に湿疹ができ、皮がむけて皮膚が赤くただれ痛いのだろう、しょっちゅう泣いている、Maria、Badai両ファミリーはなぞの病気に掛かっているBudanファミリーの子には自分達の子供を近づけたくないらしい、それが離れて暮ら原因だと人達は言う。

彼女達ファミリーは揃って家が無く路上生活者であり、旦那の仕事も揃って聞こえは悪くないサイドカーボーイ、実際は写真で見て解るとおりサイドカーとは『籠付き自転車』の事である、籠にお客さんを乗せて走る、大体2kmで一人20ペソ4人乗せて走る事もある、一日の稼ぎが平均250ペソである。 そして家の無い彼らはこのサイドカーが家の代わりをする、中で食事をし、寝起きもこの中でする、サイドカーの一日の賃貸料は50ぺそ、これさえ払えない場合がある、貯蓄の習慣が無い彼らは江戸っ子同様宵越しの金を持たない、のでなく持てないのかも知れないが、兎に角毎日『出たとこ勝負』で暮らしている、家族の誰かが病気になった時の事は考えていられない。

サイドカーボーイ本人が病気になるとサイドカーの賃料が払えない、これは大変困る、医者にかかるとか薬を買うとかは金が無いために出来ない、自然治癒を期待してただ寝ている、だから直るのにも日にちが掛かる、ただ寝ていても自分を含め家族は腹が減る、子供が大きければ子供が援助する、しかし家族といえども毎日毎日頼っていく訳には行かない、周りの連中だって他人を助ける余裕など持ち合わせていないのだから、じゃあどうする私は興味が合ったのでRJに聞いてみた?家族が一日最低限度で食べていくのに30ペソ(米が1キロ買える)必要だと言う、そこで登場が金貸し『ファイブ・シックス』 ここで借金をする。

これは借りた金を5で割ってその1回分を6回返済する仕組み、例えば1,000ペソを借りると、1日200ペソ返すとすると6回計1,200ペソ返済する、これが元々の『ファイブ・シックス』の語源、これでは5日間借りて6日目に2割の金利を払う事になる余りにも暴利、この方法は昔賭博場で良くあった、現実はこうである、2割の金利込みで40日、40回払いで返済して行く、例えば3,000ペソを借りた場合90ペソ×40回=3,600ペソこうなる、実質年利はどれ程になるのだろう?

彼らが500ペソを借りると(それ以上は借りられないそうである)1日15ペソ×40回=600ペソ5日間寝ていてもその間の返済は合計75ペソ425ペソは使える計算になる、サイドカーの賃料が5日で250ペソ食事代合計が150ペソ病気を治してから毎日15ペソづつ残りの35日間返す、これなら可能であるが、難しいのは病気がこれ以上長引かない事が条件である、どんな時も『出たとこ勝負の生活』に変わりは無い。

もう一家族、この辺では有名なJoyファミリーを紹介しなければならない、彼女は24時間営業の街角商店経営者、立場は私と同じである、旦那はサイドカーボーイだが前出の3ファミリーと違って彼らファミリーには近くのスクウォータ(squatter)に家がある。
フィリピンでは英語の発音に近いスクウォータ(http://ja.forvo.com/search/squatter/)と言うが和製英語はスコッターと発音する、米国人には全く通じない。
スクウォータとは不法占拠地域の部落化したもの詳しくは以下を参照 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%82%B3%E3%83%83%E3%82%BF%E3%83%BC
スクウォータでも電気と水道の確保はして有る、しかしその中でJoiの家は電気、水道、バス、トイレ全て無し無し状態、だが雨漏りだけは有る、家賃一月1,500ペソ広さは6畳には満たない5畳半、そこに子供6人と夫婦で住んでいるが、全て一緒には生活できないので半分が街角商店の店番などで表にいて半分が家で休む、ちゃんとローテーションが有るようだ。

Joyファミリーには15才の長女が一番上にいるが家を出てしまい、少し離れた別のスクウォータで3ヶ月前に産み落とした子供と、やはりサイドカーボーイの男と暮らしている。 彼らは自分の奥さんとか旦那とは言っているものの、何人子供がいようと99.9%のカップルが正式には結婚していない、全て同棲生活である、そしてそのほとんどが生まれた子供を戸籍登録しない、その為学校など全く無縁な子供たちが大勢いる。

原因は言わずもがな貧困である、この国には生活保護の制度が有るとは聞いた事が無い、結婚を登録するにも、生まれた子供を登録するにも、学校へ行かせるにも全てお金が必要、明日どころかたった今食べるお金の工面もままならない彼らには決して出来ない事なのである。私も彼らに頼まれてお金を貸すことがある、『貸す』っと言うほどの金額ではない50ペソ、100ペソが約束の日が来ても返せない、私も返せとは言わないが、その後は貸してくれとは言ってこない。

路上生活は幸い今までする機会が無かったので、その苦しみや困難さは実感としては湧いてこないが、生きる為の最低条件は食べる事、の他に水が必要である、この国は常夏、寒さをしのぐ事は全く必要ないので、蚊さえしのげれば野宿は苦はない、しかしこの生活用水の確保が出来なければ路上生活も出来ない、ところがである私の家もそうだが、今住んでるこの下に大きな水脈が有るそうで、この界隈では井戸水が生活用水として活躍している、飲料水になるかは大いに疑問だが路上生活者のみならずこの辺の住民は直接飲んでいて水が原因で体調を崩したなど聞いた事は無い、水道は料金が掛かるが井戸水はただ同然であるから、路上生活者も22De Mayo通りに有る手動ポンプで好きなだけくみ上げる事が出来る。

しかし他にも大きな問題がある、排泄処理の問題は周りの住民も大いに迷惑をしているばかりでなく著しく非衛生的でその匂いにも困惑している。22 De Mayo通りはQuirino通りからQurino通りと平行して流れる川Tripa de Gallinaに突き当たる道幅は約6m、全長100m位の短い通りである、Qurino通りから見た写真右側がレストラン左側が廃ビルディングである、このビルディングの正面にダンボールを敷いて住居をする。私の車(『エッペのケツ』の主人公、今も健在ですがP300,000で売りに出してる)が丁度衝立代わりになって路上生活者を外から隠す役割をしてしまっている、売れてしまえばなくなるが、又違う車がここへ駐車するので同じ事だが・・・・・。

路上生活者の子供たちは直ぐ前に有る、私の店の前を通っている雨水処理用の溝で大小の用をする、大人は男はたちションベン、女も壁を作って小便をする、何度注意しても又する、大の方はサイドカーでビニール袋の中でする、それをTripa de Gallina川に投げ捨てる、他に方法が無いのである、この川には子供が幾度と無く落ちている。又このビルディングの中で用を足す人もいる、レストランの経営者はその匂いに我慢が出来ずバランガイに訴えでてそこに住み着く人を追い払うのだが、何度追い払っても舞い戻ってくる。他に適当な場所が無いのである。

以前スクウォータの特集をしたことが有るが、ここに住む彼らはその又下の人種階層である、しかし下には下が有るものでこの人達よりもっと下の生活も有る、これも機会が有ればご紹介する。 彼らの中にもし今の境遇から抜け出したいと願っている人がいれば、自分の現状を悲しむであろうが、彼らは今の生活を悲しんでいるか?ッと言うと、ほとんどの連中は決してそうは見えないし事実悲しんではいないと思う、勿論満足をしている訳ではない、しかしこの境遇から脱却しようともがいている人間を見た事もないし、そんな話も聞いた事も無い、子供の頃から今の生活を送り続けている、現状に慣れきってしまっているのである、絶望とあきらめが抜け出す力を削いでしまっている。

まだ夢を見る事が出来た彼らの子供時代はとっくの昔に置き忘れて、好むと好まざるとに関わらず自分の父親の後を追いサイドカーボーイになり、女はサイドカーボーイの妻となった、その彼らの子供たちの15年後はヤッパリサイドカーボーイなのだろうか?。