喧嘩の原因は些細な事でした、カジノで勝っていたAさんはそろそろ帰
ろうとBさんに言ったのですがその時負けが込んでいたBさんは
「Aさんは勝ったから良いもののこっちの身になって考えてくれ、帰りた
かったら一人で帰ってくれ、私はまだやりたいから。」と一寸ツッケンドウ
に言われたAさんはムッとしましたが、仕方が無いので又ゲームを続け
とうとう負けてしまったのでした。

それがBさんのせいではない事も解ってはいますが、なにか納得でき
ないイライラが残っていました。Bさんはそれとは逆に勝ちが巡って来た
らしくやめそうに無いのでAさんは自分だけ先にホテルに帰ってきたので
した。

Aさんがふと時計を見ると夜10時、もう5時間以上もカジノにいた事に成り
ます、今日は昼トーストを食べたきりでその後何も食べていませんでした、
急に空腹を感じましたが食事に出るのも億劫なのでホテルのルームサービ
スを頼むことにしました。

Aさんはそれまでもう10回以上もフィリピンの経験があり、大分慣れてきた
事や英語も堪能なためホテル暮らしにも不自由は感じていませんでした。
悪の手口全部教えます。!!
今は2007年、この事件が起きたのはもう7〜8年前の事です、この中のBさんは私です。
「Bさん申し訳ないが直に300万円作ってもらえないだろうか?」
「チョッ、チョッと待ってよ、藪から棒に!」

AさんとBさんは昨日カジノに一緒に行ったのですが、Aさんはすっかり負けて少し
喧嘩状態で先に一人で帰ってしまったのが夜9時過ぎ、そしてAさんが泊まってい
るホテルから突然こんな電話が有ったのは次の日の朝10時過ぎでした。

「今は何も聞かず300万円を作る手立てを考えてよ、お金は日本のBさんの口座に
もう振り込み済みだから、何とかお願いします。」
AさんはBさんの古い友人で何回かフィリピンにも来ていました、その都度Bさんは
時間の都合が付く時はAさんにフィリピンの案内をしていたのです。
A ホテル編(覚醒剤所持現行犯逮捕)
この事件が起きた日の前日の夜、
Aさんはムシャクシャした気持ちでホテルに帰って来ました。
カジノに一緒に行った友達のBさんと口論になり、それまで
調子よく勝っていたのが急に負け始め、とうとう持って行っ
た10万ペソを使い果たしてしまったのです。

それだけならまだしも、ホテルに戻るタクシーが捕まらず、
普通なら5分も掛からないのに30分以上も掛かってやっと
ホテルにたどり着いたのでした、それに加えBさんとは喧嘩した
ままで別れて来てしまったのです。
「最後に部屋の中を捜索して何も無ければ帰ります。」っと言って、
ベッドの下、戸棚の中、冷蔵庫の中・・・。

その時一人の警官がバスルームからAさんを呼びます、いやに親しみを
込めた笑顔で、Aさんの洗面バッグを指差して「これは誰のですか?。」
と質問、Aさんは自分のだと言いました、警官は念を押すように
「間違いないですか?。」と訊きます、やけにしつこいな、っと思い
ながら間違いないと言いますと「何が入っているのですか?。」と尋ね
ますので、中には歯ブラシと歯磨き粉と石鹸、それと少しの胃薬等
が入っていると答えます。

警官が開けて見せてくれと言うので中の物を全部取り出した時、見慣
れない小さな紙包みが2つこぼれ落ちました、何だろうと拾って見てい
ると、「警官がそれは何ですか?。」と尋ねます、Aさんが「解りません」
と答えると、警官が「見せて下さい。」と言い3人の中の一人がピンセッ
トの様なものでその包みを開けた瞬間です。

「Aさん貴方を覚醒剤所持の現行犯で逮捕します。」っと言うでは有りま
せんか。
Aさんにとっては寝耳に水、何がなんだか解りません。
ルームサービスに電話しましたがなかなか出ません、暫く経って
もう一度したがやはり応答が有りません、いらいらしている所に
お腹も空いています、Aさんはその次ルームサービスへ電話して
繋がった時強い言葉で怒っってしまいました、電話に出たホテル
のスタッフは謝ったものの相当な悪感情をAさんに持ったらしい事
はAさんにも解りました。

やっとオーダーしたものが届いたと思ったら、届いた料理が間違
っていました、Aさんはそこでも異常なほどウエイターを叱り付け
ました、そしてよせば良いのにホテルのマネージャーまで呼んで
謝罪を強要しました、英語が堪能なAさんはどうしても自分の
感情を抑えられず、言ってみれば八つ当たりをしている様なもの
でしたが、実はこれが事件の発端となった様です。
とうとうルームサービスの食事をキャンセルしてしまったAさんは気持ちを
抑えられないまま外へ出たのはもう夜中の12時を回っていました、ホテル
の外へ出て暫く歩いているとさっきのウエイターとばったり会ったじゃあ有り
ませんか、これもAさんにとっては不運な事でした。

ウエイターは何であそこまで怒られなければ成らないんだと話し掛けて来ま
した、彼の話ではその後マネージャーから相当しぼられた様子です、Aさん
がウエイターに一言謝れば済んだ事でしたがAさんはそこで又喧嘩をしてしま
ったのです、殴り合いまでは行かなかった物のAさんはそうとう彼をののしっ
たとの事です。

気持ちのイライラしているAさんは近くのラーメン屋でとんでもなくまずい
ラーメンを仕方が無く食べてホテルに帰りました。
次の朝8時頃、部屋をノックする音に目が覚めて出てみると制服
を着た警官が3人立っていました、身分証明書をAさんに提示して
から警官の一人が言った言葉にAさんの眠気は一瞬で吹き飛んで
しまいました。

「貴方の部屋には覚醒剤が隠されている、と言う通報がある人から
有りました、よってこれから部屋の中を捜索します。」という事でした。
Aさんが「そんな物は持っていない、誰が通報したのか知らないが
迷惑だ」っと反論してみても無駄な事、彼ら3人は「捜索して目的の
物が無ければそれで帰ります、これが私たちの職務です。」

Aさんは仕方が無いので彼らを部屋に入れました、警官の一人に
ドアの所に後ろ向きに立つ様に言われ、いきなり身体検査をされま
した、その次にパスポートと帰りのチケットの提示を求められ、彼ら
に渡すと、最初にトラベルバッグ、次にゴルフのキャディーバッグ、
クラッチバッグと次々に調べられましたが、警官は決して自分では
手を付けず、警官の指示で全てAさんが行いましたが何も出てくる
はずは有りません。
それからAさんはいろいろ言い訳をしましたが、警官は全く聞き入
れません、弁護士を呼んでも良いと言われましたがAさんには
術(すべ)も解らず、ただ如何しよう、如何しようと思うばかりでした。

Aさんが「何とか助かる道は無いですか?。」と哀願すると、3人の
警官はAさんから少し離れタガログ語で話し始めました、どうやら
なにか相談しているようです。

話が終わって一人の警官が「やっぱり警察に行ってから、事情を
ゆっくり聞きましょう。」と言うと、もう一人の警官がAさんに手錠を
かけ始めました、Aさんは半泣きに成りながらただプリーズ、プリーズ
と言い続けるだけでした、余りの事に見かねたので有りましょうか、
リーダー格の警官が「チョット待て!」と言って二人の警官を連れて
ドアの所で又何か話しています。

戻ってきたその警官は「二人切で話をしましょう。」っと言い、後の
二人の警官をドアの外で待つように指示して、戻って来ました。
彼は悲痛な顔をして、「困った事に成りましたが、私は貴方を信じ
たい。」っと言うような事を話しました、藁をも掴む思いで、Aさんは
「私は何もしていない、覚醒剤など一度も手に取った事も、経験した
事も無い、日本サイドで調べてくれれば解る。」等とまくし立てました。

彼は暫く頷いて聞いていたましが、「証拠が上がってしまった以上、
言い逃れは出来ません、無実を晴らすには法廷での裁きの場で
貴方の言いたい事を言えば良い。」と言います、
Aさんは「何とかならないものだろうか?、出来る事なら何でもする、
助けてもらえないだろうか?」と縋(すが)る思いで必死に
懇願(こんがん)しました。
彼は又暫く考え込んでいる様子でしたが、それならばとこう言い始め
ました、「300万円用意できますか?もし出きるのなら助けて上げられ
るかも知れません。」

Aさんは「300万円は今無いが幾日(いくにち)か待って貰えないだろ
うか?必ずそろえるから。」と言いますと、「それは駄目です、今日中
なら待てない事も無いが、今日の夜10時までにそろえて下さい、
その時まで出来なければそのまま警察に連行します、それからこの件
は一切秘密にするように、もし誰かに話せばやはり逮捕するしか有りま
せん、パスポートとチケットは預かって置きます。

連絡は私の方から取ります、今日の午後3時にここでもう一度会いま
しょう、必ず3時にはどこにいても一回帰って来るようにして下さい、
それでは約束しました。」っと言って出て行きました。
Aさんの家から日本のBさんの銀行へ300万円の送金を依頼して、
Aさんはシツコク尋ねるBさんには真実を言わず、何とか300万円
を作ってもらい、午後3時に警官が来るのを待ちました。

3時半頃に成ってその警官はやって来ましたが、その時の警官は
私服でした、彼は金を受け取り、パスポートとチケットをAさんに返
すと、ほとんど無言でしたが、ただ一つ他言は絶対無用だと念を押
して帰っていきました。

Aさんは暫く何も考えられない様な状態で、電話の音が成るまで全
くの放心状態でした、電話はBさんからで、これからAさんの部屋へ
来るとの事でした。

その当時ほとんどフィリピンに住み着いている様な生活をしていた
Bさんは、「何が有ったのか話してほしい、心配は要らない、秘密は
必ず守る、私を信じて全て話してほしい、一体あの300万円は如何
したのだ?」っと、執拗(しつよう)に聞いてきます、Aさんは意を決し
て全てを打ち明けました。

聞き終えたBさんはまずこう質問してきました。
「Aさん、貴方はフィリピン警官の身分証明書を前に見た事が有りま
すか?」勿論Aさんは初めてでした、そして「3人の警官は拳銃を持
っていましたか?」Aさんは余り気にしていなかったが持っていなか
ったかも知れないと答えました。

そして「今日の3時半に来た時は一人で、しかも私服だったのでね?」
Aさんが「その通りだ」っと言うと、Bさんは「一寸待ってて下さい」
っとだけ言い残して出て行ってしまいました。

Aさんは如何したんだろう、Bさんが余計な事をしなければ良いが、
もしBさんに話した事があの警官にバレたら今度こそ刑務所行きだ、
等と考えると気がきでは有りませんでした。

暫くしてBさんが帰って来ました、そしてこう言うのです、「Aさん、貴方
はハメられた様です、今、この階のフロアーガードマンに今日朝8時
頃制服警官が3人来たか聞いて見ますと確かに来たと言います、
今度は下へ行ってドアーマンに尋ねますと、制服警官は一人も来な
かった、出て行ったのも見て無い、っと言うでは有りませんか。

多分3人は警官ではなくどこからか警官の制服を借りてきて、このホ
テルの中のどこかで着替えたのでしょう。
勿論身分証明書など偽物です、それに警官は必ず拳銃を持っていま
すし一人ならともかく、3人で来て貴方を逮捕しないのも変です。

それに3時までの間に貴方が違う行動を、例えば私に事情を説明して
私が行動を起こしたら、その警官は首で済まされる問題では有りま
せん、もしほんとの警官なら行動を共にするか、貴方を見張るか、
貴方を隔離した上で金を奪う算段をするでしょう。

彼らはそこまでは頭が回らなかったと見えますが、貴方も冷静ではなか
った、彼らは警官に扮装して、目指す獲物に取り付いたのです。
しかしそんな事をするには誰かホテル内部で糸を引く役目の人が必要
です、そうでなければ貴方が標的になるはずが有りませんから。

但し、もしAさんがその人に心当たりが有ったとしても、探すのはよした
方が賢明でしょう、見付かりっこ有りませんし、深みにはまって行かない
とも限りません、警察に届けを出したいのならそれも良いでしょうが、
まずお金は戻ってきませんし、犯人も捕まりはしないでしょう。徒労に終
わる事は火を見るより明らかです。

貴方は恨みを買ってしまったんです、これからは言動に十分注意した方
が自分の為です。
外国で恨みを買うような行為は間違ってもしては成りません。」

記 2003年10月