ほとんどがビハインドザボール、所謂ダフリながらボールを打っている
しかし時にFさんのすくい打ちは不思議な程見事にボールを捕らえる、
私でもあの真似は出来そうに無い。

Fさんは国体にまで出たテニスの名プレーヤー、40歳を過ぎた今でも
30年以上やって来たテニスは健在でフィリピンでも続けていると言う。
そもそもゴルフとテニスではボールを捉える基本的な体の動きが全く違う。

テニスは常に動いているボールを追いかけて行って打つ、ゴルフは常に
止まったボールを打つ、テニスはプレイヤーがいつも動かなければなら
ないので体重は常につま先に有る。

ゴルフは左右の動きと回転の動きが入る為土踏まずに体重が有る、
テニスのボールを打つ為のラケットの動きは下から上である、ゴルフの
スウィングは上から下の動きでボールを捕らえる、右利きのテニスプレ
イヤーは右手主導でボールを打つ、ゴルフは左手主導でスウィングをする。

この4つ違いがFさんを戸惑わせている、ゴルフとテニスでは同じボール
を打つゲームでも大きな違いが有り、テニスプレイヤーがゴルフスウィングを覚える時に苦労する原因と成っている。

Fさんにゴルフとテニスのスウィングの違いをまず頭で理解してもらった
考え方の一番大きな違いはゴルフと言うスポーツは自分でクラブを
コントロールしてボールを打ちに行くのでは無く、プレイヤーは自分の
一番良いスウィングをする事だけを心掛け、そのスウィングがボールを
打つと考える事。

決してスウィングを飛び越えて自らボールを打ちに行くのでは無い、
なぜならばクラブヘッドのスピードは早い人ならドライバーで時速200kmにもおよぶ、クラブがトップからインパクトまで動く距離は多くて3m、
この約0.05秒の間に時速200kmで動くクラブヘッドをコントロール
する事など到底不可能だからであると付け加えた。

当時のFさんは良い時には100を切るが、悪いと120も叩いていた、まともにボールが当たらないのだから仕方が無い、最初に矯正したのは余りにも強い右手を押さえて左手主導のスウィングを覚えてもらう事だったがこれでもう躓いた、なかなか左手リードのスウィングが出来ない、それも当然である。

鍛えに鍛えた右手を殺して左手リードでスウィングする事など今まで1度も考えたことが無かったと思うからである。それでは右手は全く使わないのかと言うとそうでは無い大いに使うのである、しかし使うタイミングと使う場所が大切である、使うタイミングは言わずと知れたインパクトの瞬間である、右手は使うしかし右手全体を使うのでは無い。

それでは何処かというと人差し指それも第二間接と第三間接の間の指の腹では無く、親指側の外側でである。これは実体験が簡単に出来るので紹介する、写真の様にインパクトの瞬間を再現して見る。

最初両手全体でも良いからボールをヒットする方角へ力を加える、そして力を加えたままグリップを徐々に緩めて見ると先ほどの右人差し指と左手の薬指、小指に力が掛かる事が解る、但しグリップが私と同じ形ならばと付け加えて置かなければならない。

このドリルはテイクバックからインパクトまで左手主導で行くつもりで、インパクトの瞬間に右手を返して止める、これがちゃんと出来れば弾道も飛距離にも変化が出て来る。

それに加えもう一つの難題も有った、永年下から上へスウィングするトップスピンのボールを打つ訓練をして来たFさんには上から下に打ち込みバックスピンでボールを上げて行くゴルフのスウィングには体が馴染まないのである。

ゴルフで付いた悪い癖を取るのはそれ程難しい事では無いと思うが、違うスポーツで、それも永年鍛えてきた言って見れば正しい癖を取る事は当人に取っても私が想像する以上に難しい事なのであろう。今まで懸命に練習してマスターして来た事のほとんどが残酷な事にゴルフでは邪魔なただの癖となってしまうのである。

頭では理解出来ても体が反応せず、どうしても修正できないFさんでは有ったが、強い手首と柔軟な筋肉で出来た理想的な体を持っていた、もしゴルフのスウィングをマスターすればきっと素晴らしいプレイヤーになれると確信した。

私の所へ指導を受けに来る人は全てゴルフが上手に成りたいから来るのである、誰も好き好んでお金を払って大事な時間をつぶしに来る人などいやし無い、私にはそれに応える義務がある、私の所へ来る以上必ず上手くなると言う期待を持って来ている、だから私も精一杯でティーチングする。

Fさんは週に一度か10日に一度思い出した様にレッスンに来る、このペースでは上達はなかなか望めない、しかも彼はほとんど週2回のラウンドを欠かさない、私はFさんに言った、もし本当にスウィングを直したいのなら今のティーチングのペースでは無理である事、ワンポイントのレッスン位なら出来るが本格的なティーチングを望むなら最低週2回のレッスン時間が取れないようならスウィング改造の期待は出来ない事等。

それから彼は来なくなったが私はそれが正解だと思う、彼のスウィングを徹底的に改造するにはかなりの期間が掛かる、Fさんもテニスをある程度まで極めたスポーツマン、その辺の事は良く理解出来たはずである。

しかしあの手首の強さと素晴らしいばねを持った筋肉は惜しいものだとも思った。

記2007年1月
     我が親愛なる生徒達
テニスの名プレイヤーがゴルフに挑戦