Dさんは正真正銘の『シングルハンディキャッパー』、一時は80を叩かなかった時期が続いた、可愛そうな事にある日急に肩を痛め、それが長引き約4ヶ月の間クラブをろくに振る事が出来なかった、それでも痛いのを我慢しながら、たまにはプレーはしていたらしいが・・・・・。

元々彼はゴルフが大好きでキャリアも30年以上である、Dさんと最初に会ったのは私の友人と行ったゴルフ場でその友人に紹介された時だから、かれこれ3年前の事だった、俺は仕事柄Dさんがどんなゴルフをするのかを見るとも無く観察して見た、ハンディキャップは15位、スコアーは90凸凹スウィングはトップで右手のひらにクラブを乗せダウンからインパクトまでクラブが寝て入ってくる右手スウィング、しかしそろそろ70歳にしては良く飛ぶ、私に負けないドライバーショットの飛距離だ、確かその時のスコアーは90は叩かなかった位だったと思う。

それ以後全くDさんと会う機会が無くなり、しばらく経ったある日急にスウィングを見て欲しいと私に電話が有ったのは去年の7月の事だった。しばらくぶりで会った挨拶もそこそこに『兎に角スウィングを見て欲しい』との事、Dさんのスウィングは以前見たスウィングに輪を掛けた様な右手スウィング、アウトからしかクラブヘッドが来ないからスライスか引っ掛け、シャンクもでる、オマケに体の開きが早いからクラブフェイスが返らない前にヒットポイントが来てしまい、プッシュアウトまで出る、千変万化の球筋である。

『何とかならないでしょうか?もう90も切れない』っと泣いている、Dさんの年から考えて基礎から叩き直すっと言うのでは余りにも酷、彼のスウィングの中で一番の欠点はトップ・オブ・スウィン グ、(注目の写真)を見ると解る、クラブフェイスが天を向いている、
クラブを地面と平行にすると、何も力が加わらなければトウ側が下になる、トップを作って左手1本でしかもシャフトを親指に乗せて小指を残して他の指を全て開くとクラブヘッドのトウ側が重いので自然と下に向くのである。

これが彼の場合は右手に乗っている為クラブフェイスが天を向く形になってしまうのだ、しかしこれを直すのは大変である、スウィングの矯正の中でトップを変える事が一番難しい、完成するまで毎日やっても1ヶ月や2ヶ月では完成しない、しかも大変苦しい矯正でトップからクラブが降りてこなくなり、全くスウィングが出来なくなる。

俺はトップを直すのを諦めた、しかしこのままでは右手が強すぎてダウンスウィングでインサイド・アウトの軌道が取り辛い、俺は徹底的にテイクバックのスタートを叩き直した、アドレスからテイクバックに入った10cmをイヤっと言う位しつこく矯正した。

方法はこうだ、まず左手でクラブを持つ、そして自分が思っているよりはるかにインの方向へテイクバックのスタートをする、これはヘッドを引く方向に線を引いた、しかも10cmだけを集中してそれを過ぎたらいつものトップまで持って行く、それが出来たら右手を加えて同じドリルをやって貰うのだが、その時注意するのは右手が加わっても、やはり左手だけにクラブの重さを感じながらテイクバックする事である。

フォローは決してインに巻き込まないように、テイクバックした方向から今度は逆にインパクトに入って来れば自然とアウトに抜ける、最初はハーフショットで来る日も、来る日も出来るまでそのドリルだけをやって貰った、最初の2日間シャンクばかり打っている、今までアウトからクラブを入れて来てそれでもスライスやプッシュアウトが出ていた分けだから、なかなかアウトにクラブを抜く感覚が掴めない。

たださえ右にボールを出したくないのに、クラブを右(アウト)に抜くのが気持ち悪くて出来ないものである、しかしかまわず続けてもらう、これがレッスンの中で一番苦しい事、自分では何をやってるのかさえ解らなくなって来る、今まではスライスでもヒッカケでも兎に角ボールは前に飛んでいた、このドリルを始めた今は前にさえ飛ばない。

しかしDさんは我慢が出来た、3日目位からクラブの芯に当たる事も出て来た、ハーフショットをフルショットに変えた、4日目にはシャンクの割合がグーンと減り、芯で捕らえたボールが右へ飛んで行く様になった、いよいよインサイドアウトの軌道が出来るように成って来た、Dさんは殆ど毎日来た、黙々とドリルをこなしている、ボールの飛んでいく事だけ考えれば、本人はむしろ『悪くなって行くのでは?』っとさえ勘違いする程一瞬当たらなくなる。
これは指導者を本当に信頼しなければドリルを続ける事など出来ない、こんな時ティーチング冥利に尽きる。

5日目シャンクは全くでなくなった、但しボールはまだ右に飛んでいったままだ、俺はやっと次のステップに入った、頭の暴れを抑えるドリルである、これはそんなに難しい事ではない、しかもハーフショットで大分矯正できている、左足の膝をインパクト前に伸ばすっと言うより突っ張るドリルをしてもらう事により頭の暴れは止まった時、弾道は見事なドローに変身していた。

アイアンの距離が3つ伸びた凡そ30Yである、150Yをピッチングウェッジで打つようになったのはそれから3ヵ月後、その頃は80を切、半年後には80を叩かなくなった。




その後肩に故障を起こし、今年の5月まで殆どゴルフが出来ない状態が続いた、半分やる気をなくしてしまったDさんは、悪くなったのを取り戻そうと、練習するのでは無くクラブを変え始めた、俺の店でアイアンを変えたのは4回、オーチャードでBさんとラウンドの機会が有りDさんも誘った、その時『ティーチングを受けた方が良いよ、クラブを取り替えても良くならない事位は知っているでしょう?』俺はそう言って練習再開を促したが、一度落ち込んだDさんはあの時のファイトを失ってしまっているかの様に生返事であった。


そして昨日やる気になったのか、突然電話で『又、見てくれる?明日行くから』っと言って来た、そして今日・・・・。
最初にアドレスを見て驚いた、『何処を狙ってアドレスしてるんですか?。』『あの175Yの看板の方向です。』実はDさんがターゲットとしている所よりはるか左を向いている、アドレスしている両足のつま先にクラブピッタリ付けてそれをターゲットとボールを結んだ後方に立って見て貰う、『あれ!!ずいぶん左向いてるな!!。』、『やっぱり右に行くのを怖がってるから自然と左に目標を置くように成ってるんですよ。』



そしてターゲットにスクウェアーになる様にアドレスし直すと『なるほど、ターゲットに真っ直ぐ立つと右が怖いや!。』俺は一本ターゲットに向かって線を引いた、『これに平行にアドレスして下さい。』最初はどうしても出来ない、何球か打ってもらったがどうしてもクラブがアウトから入る、スライスかヒッカケ、大昔のスウィングに戻ってしまっている。

俺は『こりゃ、1からやり直しだな』っと心に決めた。そして最初にやった左手でインサイドに引く練習をして貰った、最初アウトインの軌道だったのがティーチングの終わり頃には何とかストレート近くにまで戻ってきたがまだ油断をするとシャンクやダフリが出る、しばらく掛かるかも知れない。

俺の今日の格言:スウィング成功の鍵は(テイクバック)スタート10センチに有る