←ROOM 7
←シャワールーム
← Room 1
追加写真 左にRoom 4
右に トイレ、突き当たり
ドアが開いているのが
Room 6
半地下駐車場入り口→
13、推理は的中した!
P10 3階へ行く通路、
右手前に見えるドアが
Room 5 奥に3Fへ行く
階段が見える
P21 マスターベッドルーム
あまり大きいので貧乏育ち
の私には落ち着きません。
クーラーも大きいのが必要
ですし・・・。3日間で他の
部屋に引っ越しました。
P13 財布の埋められていた場所
P18 財布を掘り出した所
P9階段上がり口より
Room 2のドアが左に見え、
その奥左に曲がった所に
小さくRoom 4のドアが見える
P22 バスルーム
一旦盗まれた私の財布
今も使っています。
外から見た財布の在った現場
財布泥棒捕物始末
鍵を掛け忘れたドア
P8 2F階段上がり口より
Room 3とシャワー室見える
半地価駐車場
外観全景正面から
← Room 2
←Room 1
シャワー室→
←3Fへの階段
トイレ→
ルーム5→
さて、これからどうするかである、私は一計(いっけい)を案(こう)じた、
と言ってもここまで来れば簡単である。

財布は中身を抜いてその代わり「犯人はお前だ、見つけたぞ」とメイド
の名を添え書きをした紙と一緒に、現金を抜いた後ティッシュを詰め
元財布が隠してあった場所へ戻しておいた。そしてそこへメイドが行け
ない様通路を一時遮断した。

私はEさんに「今すぐにでも犯人を捕まえる事は簡単だが、少しチャンス
を与え様と思う、相手はまだ17歳の子供である、出来心と言う事も有るし
こちらにも財布を見える所に置いた非も有る、そこで3日間の猶予を与
える事にしようと思うがどうだ?。」と言うとEさんも賛成した。

もしその間に白状すれば本当に許してやろうと思ったのである。
しかしそれは案の定無駄な情けであった、3日間あの手この手で白状さ
せる様仕向けたが全く口を割る気は無く、それどころか財布を取りに行
くチャンスをすきあらばと狙っている様子で有る。

丁度3日目の事である、とうとう我慢し切れ無く成った彼女が私に
訊ねて来た、それは彼女が考えに考え抜いた挙句(あげく)の精一杯
の知恵で有った、『庭に水を撒きたいが長いホースが必要で、それを
取りに行きたい。』と言って来た、語るに落ちるとは正にこの事だ、
その時私は生返事をして置いた。

庭にはホースがちゃんと有る、わざわざ少しばかり長いホースを取りに
行く必要はない、焦(あせ)った彼女は墓穴(ぼけつ)を掘った、財布の
隠した場所の側には確かに長いホースが有る。私はこれを逆手(さかて)
に取る手を思い着いた。温情として彼女に与えた3日間の猶予が終わって
しまった。4日目、仕方が無いので可哀相だが捕まえる事にした、

7、いよいよ犯人逮捕!!

捕まえるのはいとも簡単である、腹を減らした犬の首輪を解けば餌のあ
る所に一目散に飛んで行く、それを待って犬が餌を食べている所を捕ま
えれば良いので有る。

メイドの希望通り、長いホースを取って来る様Eさんに言わせた、勿論そ
こへ行くたった一つの遮断してある通路を解除した。私は先回りして彼女
に見えないようにカメラを持って隠れた、後の証拠としてメイドが財布を
取り出そうとする瞬間を撮るためである。

この写真が決定的な証拠となり、彼女のこれからの運命を決める事とな
る。失敗は許されないたった1度しかないチャンスである。
ここからは取り出す瞬間は見えない、タイミングは彼女が財布のある現
場に立った瞬間でよい、その後は財布を持っている彼女を撮れば完璧
である。

しかしあらぬ心配が頭をかすめる、もし彼女が写真を撮る前に財布を投
げ捨てでもしたら・・・。
タオルを持って来る事など考えにも及ばなかった、そんなに暑い日では
ない、にも拘(かかわ)らず、緊張からの汗が吹き出てまるでサウナ宛
(さなが)らである、メイドが来るまでの10分がやけに長く感じた。

小さな隙間から見ていると、とうとうメイドが現れた、案の定ホース
など見向きもせずに財布のある場所へ一目散である、その写真を1枚
撮ってから表に出た。その時のメイドの態度は私の想像外だった。

目と口を大きく開け飛び上がって驚くだろうと思っていたが意外とそうで
はなく、彼女はとっさにホースを拾い上げようとした。しかしそれが無意味
な行為だと解った後はどちらかと言えば諦(あきら)めの様子だった、手に
持った財布を私に見せた。

その写真を1枚取ってから(撮ったつもりが撮れていなかった)中を見る
様に言った。彼女はそれに従い財布を開けた、最初、中のティッシュを見た
時は何が起きたのか解らない様子であった、有った筈の金をしきりに探し
ている、が、まさかっと言う顔で私をまじまじと財布の中を見つめていたが、
間も無く全てを理解した時ばかりは本当に驚いた様子で有った。

当人はまさか財布が既(すで)に発見されていたとは夢にも思っていな
かったのである。
私の次に取った行動は、彼女は勿論(もちろん)、周りの者皆全てをを
驚かせた。

8、ここは譲れぬ勝負所!!

私は何の躊躇(ちゅうちょ)もせずに警察官を呼んだ。
私にとっては事件の起きた最初からの予定の行動である。
普段はそんなにキツイ制裁はしない私が、まさかそこまでするとは思って
もいなかったEさん達は驚いた、『まだ17歳の女の子、可愛そうだから
それだけは勘弁してあげたらどうだろう。』と抗議したが、彼らの言葉
一切を無視した。

周りの人間への見せしめの為にも、ここは心を鬼にせざるを得なかった
今は断固とした態度を取らなくてはならないのである、これは事件当初
からハッキリ決めていた、この場は情の全てを切り捨てる。今後の為、
と言ってもメイドの為にでは無く私自身の為である、私から物を盗めば
必ず捕まえる、捕まえたら容赦(ようしゃ)はしない。

と言う怖さを、私を取り巻く全ての人間の心の中に、強烈な印象として植え
付けさせなければならない、絶対に甘い所は見せられない勝負所である。
メイドはこれで2年間は拘置所の中だろう、しかし警察官が来てメイドを連
れて行く事になった時思いもよらぬ方向に事態は一変した。

メイドは17歳、未成年者を裁くにはフィリピンの法律では親の同伴が必
要である、どうしても訴えたいのならば原告である私が親を呼ばなけれ
ば成らないそうである、当たり前の話だがフィリピンにも少年法は有った、
メイドの田舎はザンボアンガである、かなり面倒臭い。

表向きは仕方が無く諦めてメイドを田舎へ返す事と成ったが、実の所私
はむしろほっとしている、見せしめには十二分に効果は上がった、事件
発生当初私が考えていた目的を達成した手応えもしっかりと掴んだ、
この上17歳の娘を拘置所に送るまでは必要無いであろう。

私自身も以前からこんな事態に成った責任も感じていて彼女に対しても
一寸可哀想だとは思っていたからだ。
その後皆が口を揃えて私に聞く事は、勿論どうして財布を見つける事が
出来たか、と言う事だったが、私はそれには曖昧(あいまい)に答えて置
いた。

理由は説明するのが面倒臭かったのと、その辺は謎めいた事にしてお
いた方が神秘的である、又彼らには説明してもどうせ解らないだろうと
思ったからだ。
その時誰にも明かさなかった財布発見までの私の推理をここで説明する。

9、財布発見までの推理

事件当日、家に戻ってから財布が無くなっている事に気付いた時、盗ら
れたとすぐに直感した、以前にも財布を盗まれた事が有った、その時も
やはり家の中で寝ていた時である。犯人は解ってはいたが、確証を掴む
事が出来ず臍(ほぞ)を噛む思いをした。

今回は絶対にそうはさせない、どんな事をしてでも犯人を捕まえてみせる。
その後Eさんを含めてメイドと2人の子供の態度を備(つぶさ)に観察し続
け、犯人を第1番にメイド、次に8歳の女の子と二人に絞った。

もしメイドが犯人なら間違い無く財布はこの家の何処かに隠されている、
田舎から出て来てまだ1ヵ月余り、知り合い等全く居ない、誰かに預ける
事も出来ない所か、外へ出る事さえ覚束無い(おぼつかない)、子供が犯
人なら口を割らせる事は然程(さほど)難しい事ではなかろう。

私が子供と2人だけで話してみたのと、Eさんが子供と話しているのを聞い
ていた私はますますメイドが犯人との疑惑を強めた。

メイドは真剣に、いや真剣さを装って在りもしない財布を捜している、それ
を睨(にら)むかのように凝視(ぎょうし)していた私はメイドが憎らしく、腹
立たしい思いで、胸が一杯になった、その時『お前を絶対捕まえてみせる。』
っとメイドに向かって小声で言った、勿論彼女は日本語など解ろうはずも
無い。胸の奥で一種の強い闘志が湧いて来ている事を感じた。

私はまず冷静になる為に、今は邪魔な、怒り、憎しみは一時(いっとき)頭
から削除する必要が有った。その次に財布を探す行為を一切諦(あきらめ)
た、そしてこの大きな家の中のどこに隠されたかを推理してみる事にした、
又、それより手が無いような気もした。

手当り次第に探し回って探せるほどの家では無いからである、なにせ大き
過ぎる。推理する上での鍵、それは近くには知人や友人がいない遠い田舎
からたった一人で出て来た17歳の子供が犯人であると言う事、この事が大
きなヒントに成るかも知れないと思った、犯人の真理を探る事が事件解決の
糸口となるはずである、その上でも犯人の置かれた立場を冷静に分析しな
ければならない、考える上で絶対に忘れては成らない条件だと心に刻んだ。

しかし私には何か心に引っ掛かる物が有る、さっきから考えてはいるが何で
有るのかその正体がまだ見えていない、何か大事な事を忘れている様な気
がして成らない、一体なんであろう・・・。

先ほどのメイドに対する怒りと憎しみの興奮はすっかり消えていた。財布が
今現在どこに隠されているかの一方向に、私の思考は動き出していた。
暫く(しばらく)して、さっきから心に引っ掛かっていた正体が現れた、簡単な
事であった、近くに知人が居なくとも連絡は取れる方法、それは携帯電話で
ある。こんな簡単な事が解らない自分は、まだ冷静さを欠いていると思った。

彼女は携帯を持っている、マニラに全く知人がいないとは限らない、もしかし
たら、もう連絡が取れているかも知れない、但し今日はまだ来ていない、
二人の子供は訪問者は誰もいなかったと言っている。

彼女は買い物に出ている、その時彼女がその気ならば、知人に渡す事が
出来た筈である、しかしそれも可能性が薄い、もしその気ならば子供を
わざわざ連れては行かないであろう。やはり財布はまだこの家のどこかに
有る。
それからの私は他の事全てを頭から切り離して、唯一つ財布発見の推理に
思いを馳(は)せた。

10、時間との戦い

しかし心は焦(あせる)る、時間が無い、少し頭を休めると代わりに必ず
この言葉が浮かんで来る、なかなか推理に没頭できない。

財布は必ず明日の朝までに見付けなければ成らない。
もしこのまま財布が見付からず明日になれば、今度こそ間違いなく、犯人
は誰かに連絡を取り、財布を渡すかも知れない、そうで無いとしても、
財布から現金だけを抜き取り後は川の中へでも捨ててしまえば良いので
ある、現金は田舎にでも送ってしまえば心配はない、送金と言っても我々が
考える銀行ではない、口座などほとんどの人が持っていない、必要が無い
からである、フィリピンには送金専門の私設会社が有り、殆どはそこを使う。

そして送金さえしてしまえば永久に財布も犯人も見付からず、この事件は終
わりである。しかも彼女は送金の経験が有る、彼女が始めて私の家に来た
時私から前借した現金を田舎へ送った、Eさんがその方法を教えたのである。

今日犯人が財布を盗んだ時、既に送金が出来る時間を過ぎていた、次の日
まで一旦どこかに隠すより方法が無いのである。
私達は明日仕事に行かなければ成らない、一日中犯人を見張っている訳
には行かない、いや明日は休んで見張っていても良いが次の日は、そして
その次の日は・・・、不可能である、犯人はいつまでも我々が外出するのを
待っていれば良いのである。

しかし方法が全く無い訳でもない。第一に、メイドを今直ぐこの家から遠ざけ
て財布が見付かるまで家には戻さない方法だが、少し現実離れしている、
いったいいつまで、そして何処へメイドを隔離(かくり)して置くのかの問題
だけでは無く財布がとうとう見付からなかったらどう言う対応をするかの問題
が残る。

第二に、罠を掛ける事も可能である、同じ財布をもう一つ用意し、さも見付
けたかの様に彼女に見せる、全く同じ財布でなくとも良い、似ていればそれ
だけで効果はある、その後の彼女の行動を注意深く追えば良い。

しかしこれにも穴がある、彼女だって言って見れば命懸けである、もし我々
の不審な行動が少しでも解れば、財布を諦めてしまうだろう、そうすれば一巻
の終わりで犯人を捕まえる事は不可能となる。第三に、誰か彼女の全く知ら
ない人間に四六時中彼女を監視させる、っと言う手も考えられない事も無い
がこれはもっと危険である、そんなに機敏(きびん)に動ける人間など私の
知っている限り誰もいない、彼女に気付かれてしまうに決まっている。

様々な邪心(じゃしん)が頭を横切り、今必要な一点への集中を妨げる、私の
思考力は時間との戦いでもあった。
10、時間との戦い
9、財布発見までの推理
8、ここは譲れぬ勝負所!!
7、いよいよ犯人逮捕
11、大胆な仮説
少し興奮から覚め落ち着きを取り戻しつつ、私の頭に浮かんで来た事は犯人の
事であった。

まだ17歳の女の子である、しかもたった一人でザンボアンガから見ず知らずの
他人の家にわずかな給料で働きに来ている、昔の日本にも有った所謂(いわ
ゆる)「口減らし」である。
フィリピンの田舎はどこでも例外なく職がない、教育も満足に受けさせて貰え
なかった子供達が、その時期が来ても出来る事は何も無いのである、その責任
は同じような境遇で生きて来た彼らの親にあると誰しも思う、しかし今日生きる事
に懸命な人に、明日を考える余裕を求める事は酷と言う物だ。

子供の時思いを馳(は)せた、得体も解らない千載一遇のチャンス、今はそれさ
えも諦め、ただ生き続ける為の「食べる」行為が我々の想像を絶する程彼らを悩
ませる、しかもその苦しみに終止符を打つ方法を見付ける為の術(すべ)も無く、
絶望と空腹から犯罪に走る、ただ、今食う為の犯罪である。
極貧が人間そのものを形成して行き、彼らの思考回路を歪(ゆが)めて行く。

彼女とて当てが有ってマニラに来た訳では無い、田舎に居ても食べられないの
である、っと言って何の保証が有る訳でもないマニラに彼らが求めるものは
「職」では無く、もっと直接的な「食」なのである、フィリピンの現状は今の日本人
には知る由も無い同じ地球上の別世界なのである。

もしこの子が日本で生まれていたとしたら、彼女の運命はどう変わっていたであ
ろう、いやそれよりも、もっと現実的に、もしあの時私が財布を忘れなかったら彼
女にこんな苦しみをさせなくても済んだはずである。

そしてその時である、さっき彼女の部屋の前を通った時の複雑な心境の謎が
解けた、それは彼女に対する怒り(いかり)と憎しみ、哀(あわ)れみとそして情
が混濁(こんだく)して私の感情を複雑にしていたのであった。

ダイニングの窓に薄白々(うすしらじら)とした外の景色がぼんやりと写って来る、
それが見る間にハッキリした形へと変わり、まるで私の次の行動を催促(さいそく)
してるかの様である。

いよいよ私の推理が正しいか否(いな)かの判定の時が来た。
ついさっき目的の場所へ行った時とは比べ物に成らない位落ち着いた
穏(おだやか)やかな気持ちでゆっくり歩調を進めていた時の事である。
私はその時今まで経験をしたことの無い不可思議な領域に自分が入って居る
のを覚えた、しかしそれは決して嫌悪(けんお)を感じるような不快な領域では無
かった。

目指す場所へ着くまでの間私は、今の状況には決して似つかわしくない事を
考えていた。
『これから推理の全てが現実に移行する、1〜2分後には好むと好まざるに関
わらず全てが解き明かされるはずである、しかしそれが何だと言うのであろう、
そんなに重大な事だったのであろうか?』

そして・・・

『もし私の推理が間違っていたら、財布が出て来なかったとしたら、もう財布も
犯人も探すのはよそう。』
まるで頭の中の全く別な思考域(しこういき)から湧いて来ている様である。
今自分がしている行動の全てが空(むな)しく全てが無意味な,そして全く無駄な
行為の様な気がして仕方が無かった。
犯人も財布も、もうどうでも良い、剰え(あまつさえ)財布が出てこない方が良い
とまで逆行してしまっている私の感情の変化では有ったが、どちらかと言えば心
地よさまで伴っているのである。

再び彼女の部屋の前を通った時、少なくとも怒りと恨みの感情だけは私の心から
消滅していた、代わりに得体の知れない脱力感が私の肩を落とさせた。
その時私の頭の中は一瞬空白と成っていたに違いない、今でもその時考えて
いた事はハッキリ覚えているがなぜその様な事を考えたのかは解らない、多分
寝不足に加え余りにも長い極度の緊張の中で異常なほどに集中した時間が長く
続いた性で意識が朦朧(もうろう)としていたので有ろうと今と成っては解釈する
より無い。

3階に着く、私の思考が止まった場所、それはここ3階のベランダであった。
ベランダを挟(はさ)んで2つの部屋が在る、勿論(もちろん)誰も使っていない、
ここはまるでこの家の孤島(ことう)、誰からも普段は忘れられている存在である。
実際にさっき私がここへ来たのも久しぶりであった、私の頭からも遠く離れていて
やっと最後に考えが及んだ所である。

つい先程私が諦めたのとは打って変わり,今度はベランダがまるで観念したとでも
言うように今は隠していた物全てを曝(さら)け出していた。
隠す所が意外と無い、植木を見て回る、いや、それしか無いのである、
奥の花壇に一箇所土の色が違う所が有った、人差し指で一寸ほじる、
指に伝わる感触が何であるかが解った時、
全身が総毛立つ感じを覚えた、
私の見慣れた財布が出て来たのである。
P2 ダイニング 
右側奥のソファーで寝て
いた奥にこのHPを作った
PCが見える
エントランス付近
この周りには隠せそうな
所がかなり有ります
その後直ぐにメイドは彼女の田舎サンボアンガに返しました。
18歳に数ヶ月足りなかったお陰で留置されないで済んだ事に
ホッとしているのは、彼女より寧(むし)ろ私の方だったかも知
れません。

今回の事件の発端は以前に私が財布を盗られた時とは状況が
かなり違います、財布を盗まれた事より一人の犯罪者を生んで
しまった私の不注意は、大いに反省しなければなりません。

所で今思いますのに
17才のメイドはその時どんな心境だったのでしょう・・・。
財布を盗った時、
財布を隠す所を捜していた時、
3日間3階へ行くドアーに鍵が掛けられてしまった時、
その間いろいろと質問されている時、
やっと3階へ行けるチャンスが来た時、
私に捕まった時、
警察に引き渡された時、
そして許してもらった時、

その他様々な状況で彼女の感情の変化は如何であったので
しょうか?
彼女はとっくに財布は見付けられている事も知らず、じっと来る
であろうチャンスを待っていたのです、その辛抱強い精神力は凄
まじいものでした。

1度も逃げようとはしなかったのでしょうか?
白状しようとは思わなかったのでしょうか?
今となっては聞く由も有りませんが・・・。

17歳の少女です、しかも相談相手どころか、知り合いもいない
たった一人で我慢した精神力には執念の様なものを感じました、
財布に入っていた金額は日本円で70,000円程、彼女の一ヶ月
の給料は5,000円、もし逆の立場で私が貧困生活を送っていたと
したら、そして一年分以上の給料が手の届く所に有ったとしたら、
私には彼女と同様な事をしないだけの自信は有りません。

私はここフィリピンに余りにも長く居るため、フィリピン人の気質と
言いますか、気性と言いますか、そう言ったものを普通の日本人
より深く理解しているつもりです、私がフィリピンを見て特に感じる
事は、生活苦は人間性までも変える、っと言うよりも、貧困は
人間性を形成する、っと言った方がピッタリかも知れません。

綺麗事を言っている間に餓死してしまうんです。
いつかこんな事をいっていたフィリピン人が居ました、
「泥棒する事が悪い事だと知らない人間などどこにも居いません、
ならばどうすれば良いでしょう、貴方が助けてくれますか?、
私には失うもの等何も有りませんが、家族が苦しんでいるのを
見るのはとても辛い、もし泥棒をして捕まった所で家族には何の
変化も有りません、私が確実に飯を食える所に行くだけです。」

今度の事件はメイドの人生の中で何か影響を与える事が有るで
しょうか?少なくとも私の心には多大な影響を及ぼした事件でした。

今はサンボアンガの田舎に居るはずですが、
どうしているでありましょう、今は慮(おもんばか)るのみです・・・。

記 2006年10月
P6 2F への階段
右のドアが開いて
いる部屋はROOM 1
   ↑
Room 6
← Room 4
← Room 7
Room 8
P16 とうとう犯人のメイドが現れました
財布の埋めてある場所へ一直線でした
盗まれた私の財布
を掘り出した所
完全に埋まっていました 
 ↓ 
 ↓
        ↑
        ↑
        ↑
        ↑
クーラー取り付け口

P5 ダイニングから見た
リビングかなり散らかって
いて恥ずかしい
階段後ろ
ここにも大きな
収納スペース
盗まれた私の財布
を掘り出した所
完全に埋まっていました 
 ↓ 
 ↓
P11 3Fへの階段より
Room 7を見る
P14 花壇のこの場所に私の
財布は埋められていました
P1 リビングから撮る、
ドアを挟んで右が事件現場
のダイニング左がキッチン
この家に越して来て一ヶ月、やっと一段落し掛けた頃家の中で私の
財布が無くなった。

以前財布の中の現金が少し減っていた事はたまには有ったが今回
で財布ごとは2度目である、最初のそれはマガリヤネス(マカティ)に
いた時4年程前(2002年)の話、財布の中には現金のほか銀行カード
やIDカード、自動車やプロのライセンスカード等が入っていて大変面倒
な事に成ってしまった。

どうせ大して入っている訳ではない、現金だけならば諦めも出来る
が他の物が重要である、日本と違いライセンス等の再発行にはとてつも
なく時間が掛かり何日も拘束される羽目に合う。

フィリピンの貧困家庭の割合は私の推測の域を出ないが全世帯の50%
を超えている、そのどん底の生活が犯罪を助長する、ここでは窃盗が
日常茶飯事である、一寸した心の隙(すき)を突かれて泣きを見る。

以前財布の中の現金が少し減っていた事はよく有った、その時も犯人
は判っていたが何せ証拠が掴めない、これではどうにも手が出ない、
もちろん注意はしている、鍵も玄関のドア、2Fの部屋のドア、その部屋
にある財布や貴重品を入れる引き出しにも鍵はある、それなのにその
中の財布から現金が少しずつ無くなる、真に不思議である、まるで手品
でも見ている様でそのカラクリが全く解らなかった。

ある時ヒョンナ事からその種が判った。
当時最初にオープンしたゴルフショップはマカティーに有った、小雨が
降っては止み、止んでは降る様などんよりした日の夕暮れ、何の気無し
に外を見ていると、見た事も無い男が通る、ただ何もしないで歩いて
いるだけなら見逃していただろう。

その男は何やらジャラジャラと大きな音を立てて「スーッ」「スーッ」と言
いながら歩いている、私がスタッフにあれは何だと聞くと彼は合鍵屋だ
と言う、タガログで鍵の事を「スセ」と言う、私には最後の「セ」が聞こえ
なかったのであった。その直後である、私は八ッっとしてスタッフに彼を
呼んでくるように言い、店の合鍵を作らせて見た、鍵はたったの2〜3分
で出来上がってしまった、これで謎が解けた。

まさか合鍵屋が行商しているとは考えにも及ばなかった、多分手品の種
はこういう事であろう。私の家の近くに鍵屋が来る、いや、来なければ呼
べば良い、私は鍵の管理が杜撰(ずさん)である、っと言ってもどこかへ
忘れる訳ではない、今考えれば杜撰だったと言う事である。

合鍵は作りに行くものとしか考えが及ばず、まさかスペアーをその場で作
っているとは夢にも思わなかった。鍵の保管場所は入り口のドアの横に
決めてある、外出する時でも鍵がいくつ有るかなど確かめない、そこが
杜撰で有った。家の鍵が4つ、店の鍵が3つ、ゴルフ場のロッカーの鍵、
車の鍵、その全てが一つに固まっている。

犯人はひとつずつ3回に分けて隙を観ては作ったのかも知れない。
メイドか又は運転手であろう。だがこれも不思議と現金を全部もって行く
のではなく少しだけ盗んで行く、きっとそれなら分からないと思っての事
であろう。しかし最後はやっぱり財布ごと盗まれた。

その時は残念ながら犯人を捕まえる事は叶わずそのままに成って
しまった。
今回はとうとう犯人を捕まえた、ここにその経緯の全てをを書き残す。

2、事件の発端

事件の起きたのは23/10/2006月曜日。
その日午前中生徒2人のティーチングを終え、12時頃には前日日本へ
送金してもらったお金を払いに、日本大使館そばのNさんの事務所へ行
った。良く晴れて素晴らしい天気が、強い風が吹いて来たかと思ったそ
の1,2分後激しい雨、南国特有のシャワーである。

30分位暴れて次の標的へ踵(きびす)を返して去っていく。
午後7時にティーチングが有るがその間は特に何も無い、用事を終えて
家へ帰り一寝入りする、この頃ティーチングに時間を取られて自由が無
くなっている、最近の一ヶ月のティーチング回数は200回を超えようとし
ている、なんとか考えないと他の事が何も出来なくなってしまう、っと言
って直ぐに全部のティーチングを止めてしまうのでは今一生懸命
通っている生徒たちに申し訳ない。

7時からのティーイングに間に合う様5時頃目を覚まし、パソコンで6時半
頃まで仕事をして急いで私のショップの在るヴィリアモルゴルフコースへ
行った。私はこことすぐ近くのネイビーゴルフクラブの2箇所掛け持ちで
ティーチングをしている。不覚(ふかく)にも出掛ける時に財布を持って
いない事に気付かなかった。

これが今回の事件を誘発(ゆうはつ)した原因である。ヴィリアモルへ着き
しばらくしてから財布を持っていない事に気付き、住込みの運転手Eさん
に知らないかと聞くと、「さっき家で寝ている時に枕の下に入れて置いた
が気が付かなかったんですか?。」と言う、その時はそうなのかと思った
位で何の不安も感じなかった。

PM7時とPM8時のティーチングを終え、家に戻ったのはPM10時頃、
すぐに財布を捜すが無い、盗られたと直感した。

3、家の何処かに・・・?

ここで今住んでいる家の説明をして置く必要が有るので簡単に書いて
置く、家の見取り図と写真を参考にして頂きたい。場所はマカティまで20
分、ヴィリアモルまで15分、いずれも渋滞が無い場合であるが・・・、
生活にはとても便利な所である。

間口22m程、奥行き18m程の土地に、建物は3階建てである、1階は
30uのダイニングルーム、同じくらいの広さでキッチン、それに100u
以上も有るリビングルーム、メイドルームにシャワールーム兼トイレが
2つ。

ヨーロッパ調のループ式階段の直ぐ下にゲストルームが一室、階段を
上にがった2階のすぐ左右にゲストルームが一室づつ、右側の部屋に
はバストイレが付いていて現在ここを私の寝室にしている。

左側の部屋にはシャワールームが無く廊下側に有るシャワールームと
トイレを使う。廊下の中ほど左側にもう1つ小さな部屋が有り当時メイド
が使っていた、廊下の奥の右側にシャワー付のゲストルームがもう1つ
有り廊下の突き当りがマスターベッドルーム、ここには30u程のでかい
バスルームが隣に有り、部屋の大きさは60u位は有りそう。

あまり大きすぎるのでここは使っていない。3階は真ん中に大きなベラ
ンダを挟んで2つのゲストルーム、それぞれ30u程で1つにはシャワー
ルームが無い。地下が駐車場になっていてトイレ、シャワー付きのドラ
イバーズルームもそこにある、駐車場の広さは大きい車が悠(ゆう)に
4台は入る、ゲストルームは合計7つ、部屋の数は合計10部屋
シャワールームは8つ有る。

4、犯人の目星は付いた

さて事件に戻ると、財布はいくら捜しても出て来ない、メイドとEさん、
Eさんの姪8歳と6歳が2人、私を含めた5人で財布が有ったと思われる
所をくまなく探した、私が寝ていたのは自分の寝室ではなくダイニング
ルームのソファーであった、Eさんはソファーの隙間(すきま)に落ち
込んだのではないかとメイドと2人でとうとうソファーを裏返し張ってある
布まで破いて探している。

私が出かけて帰って来るまで来客は無かったとメイドと2人の子供達は
言う、留守番をしていたのは2人の子供と17歳のメイドの3人、家を空
けたのはメイドと下の子が買い物に出た30分位の間、上の子はEさんが
財布を私の枕元に入れたのを見ていて財布の有った場所を知っている、
情報はこれが全て。

こんな広い所を小さな財布1つ闇雲(やみくも)に探す事など愚(ぐ)の
骨頂(こっちょう)で有る、いったいどこから手を付ければ良いのやら、
気の遠く成る様な話で、探し終わる迄何ヶ月掛かるか知れたもんでは
無い。

私は財布を捜すのを中断して考え込んだ、来客は無かったと言う事を信じ
れば犯人はこの3人に絞られる、勿論Eさんが犯人でもともと枕の下には
入れなかった、とも考えられ無い事もないが、彼の性格からしてそれは有
り得ない。

メイドが犯人である確立が高いが、例えそうだとしても問い詰めた所で絶
対に白状はしないはずである、フィリピンでは罪を犯せば必ず償わなけれ
ば成らないのが習慣である、故意、不注意に関わらず、過ちを認め謝罪し
ても許しを貰える事はまず無い。悪意が有ろうと無かろうと、例え後悔して
自白したとしても結果は同じである、それならば沈黙し続けた方が良い。
日本人の誰もが不思議に思う事、フィリピン人はミスをしても「詫びない」
理由がここにある。

証拠を掴むには犯人が財布を持っている所を抑えれば言う事無い、例え
財布が出てきても犯人を捕まえられるとは限らない、ハッキリした確証を
握らなければ話にならない。もし万が一、上の子供が犯人ならば隠す所
は限られている、しかし家が近い為母親に届けるかも知れない、もしそう
ならば少し厄介な事になる、母親とて正直に財布を戻すとは考えられ無
いからで有る。メイドが犯人とすればいったいどこに隠したのであろう・・・ 

5、とうとう財布を見付けた!!

次の日の朝6時過ぎ、寝ぼけ眼(まなこ)のEさんに見付けた財布を差出
した。Eさんは狐につままれた程(てい)で驚いた、どこに有ったんです
か?やっぱり置き忘れですか?、犯人を捕まえたんですか?それとも・・
私は財布を見付けた経緯(いきさつ)を簡単に説明したが寝ぼけている
のか、言葉の性なのかよく理解出来ない様だ、後でゆっくり説明すると
言ってその話は終わらせた。

これで財布は見付けたが犯人はまだ捕まえてい無い、もう2度と私の
財布を狙われるのはごめんだ、盗まれる度に泣き寝入りしていては
しめしが付かない、その為にも今回こそ絶対に犯人を捕まえて私の力を
誇示しなければならない、周りの者全てに私の物にはコンリンザイ手を
出せないと心の底から思わせなければ成らないのである。

メイドが犯人で有る事はほぼ間違い無い、しかし証拠がまだ無い。
犯人を捕まえると同時にグーの根も出ない証拠が必要である。
しかし上手い所に隠したものである、これではちょっとやそっとでは
見付からない。犯人は今でも財布は絶対見付から無いと高(たか)を
括(くく)っている事であろう。
2,事件の発端
3,家の何処かに・・・
4,犯人の目星は付いた
5,とうとう財布を見付けた
事件の有った家の内部略図
6、チャンスを上げよう
外観右から
        ↑
        ↑
        ↑
        ↑
クーラー取り付け口

P4 ダイニングから見た
キッチン
P7 階段右にRoom 1 
のドアが見える
3階の見取り図
行って見た現場は
真っ暗で何も見えなかった
←Room 3
P3 キッチンから見た
ダイニングルーム
← Room 2
シャワー室→
←3Fへの階段
          ↑
事件発生現場のソファー
右を頭にして寝ていました。
←入り口
P15 Room 8のクーラー
取り付け口から財布の
埋められている現場を撮る
まだ犯人は来ない
P21中庭 全景は撮れなかった
ここに隠されたら困った!!
愛用のPC
    ↓
収納ロッカー→
Room7 の内部
何も家具は置いてないが
収納ロッカーとうは有る
財布はここに埋められていました
この石垣の向こう側が花壇になっています。        
  ↓
この話の全ては現実に私の身に起きたノンフィクションです、
誇張や付け加えたものは一切有りません、私の身辺に起きた
事件の一つです。
フィリピンで経験した事件は数知れず 、身に危険を感じた事も
いく度か御座います。
これから少しずつ公表致して参りたいと考えております、
ご笑読(?)頂きご批評等頂ければ幸いです。
階段上部から階下を見て
1,事件が起きた
シャワー室→
外観写真 右から 建物の左下が半地下駐車場
P12 Room 7のドアを背にして
屋上ベランダ向こう側のRoom 8
が見える、
P14 花壇のこの場所に私の
財布は埋められていました
その後のメイドは・・・
P17 私がRoom 8 から表に出て声を掛けた時
彼女は反射的にホースを拾おうとしました
右手に私の財布を隠し持っています。
← Room 7
もし私が17歳のメイドで財布を盗んだらいつも持ち歩く訳には行かない
から必ず一旦何処(どこ)かへ隠す、近くに友達も知り合いも全く居ない
彼女である、この家の何処かに隠す以外に方法は無い。もう何度と無く
確認した事で有るにも拘(かかわ)らず一抹(いちまつ)の不安を拭(ぬぐ)
い切れないのである。

私は念を押すように、そして自分自身を納得させるが如(ごと)くこの事を
幾度と無く自問自答した、『もしこの家の中に無いとすれば・・・』と言う考え
が幻のように付き纏(つきまと)う。

彼女の心理を探った。
人が大事なものを隠す場合最初に思い浮かぶ所・・・、自分の部屋である、
っと言ってもこの場合泥棒の心理としては、自分の部屋は絶対に置く気に
はならない。いつ探しにこられても拒否出来る立場では無いからである。

その時彼女は1階にあるメイド部屋は使っていなかった、今の部屋には鍵
は無いし、いつ勝手に探されるかも判らない、しかも一番疑われているのは
自分である事は明白である。彼女とすれば例え何かの拍子(ひょうし)に財布
が見付かってもそ知らぬ顔をしていれば捕まる事だけは免(のがれ)られる、
そのためには自分のそばに証拠を置く事だけは避けなければ成らない。

ご主人様の部屋など考えに及ば無いであろう、それでは一階のメイド部屋
はどうか・・・・、これも危ない、家の主人は入らなくとも誰か他の人が掃除
等に入らないとも限らない、又入らなくてもこんな事件の有った後で有る、
鍵を掛ける事も考えられる、しかも引っ越して来たばかりで家具等はほとん
ど置かれてないので隠す場所が極端に限られる、

気が付くと私は部屋の中をぐるぐる歩き回っていた、私が集中している時の
癖(くせ)である。「隠すなら隠すな。」が、常套手段(じょうとうしゅだん)で
あるが、この際はちょっと違う、隠す場所を考えているのは私でなく17歳の
少女である。

ここまで考えて私の頭にふとヒョンなことが、それは全く突然どこからとも無く
浮かんで来た、その考えとは一寸大胆(だいたん)だが一つの仮説を立てて
見る事であった、部屋の中はどの部屋も全て財布を隠すには危ない・・・。
それならば一掃(いっそう)の事、部屋の全てを除いて考えて見ても良いので
はないか?最初はただの思い付きに過ぎなかった。

しかし実はこの奇抜(きばつ)とも思える自信も確信も無いただの思い付きが、
事件解決の明暗を分けた事に成るとは、その時考えてもいなかった。
若干の心残りは無いではない、が自問自答しながら兎に角(とにかく)10ある
部屋という部屋全てを思考の対象から外して見た。

実はもし私がこの推理に至ら無かったらとしたら財布を見付ける事は出来無か
ったで有ろう、今改めて考えてみればそれほど奇抜な考えとは思えないが、当
時は空き部屋の数の方が使っている部屋数よりはるかに多い事から最初はど
うしても部屋から頭が離れられなかったのである、、今と成って思えばあの状況
下でのあの閃き(ひらめき)は自らを賞賛(しょうさん)するに値する。

しかもこの推理は今までもやもやと覆(おお)われていた得体の知れない黒
い霧を私の頭の中から一気に遠ざけた、それ程この仮説は今度の事件の
解決を決定付けたと同時に私を一足飛びに事件の収束(しゅうそく)へと導
いて行くとは・・・・。

ほんの数分前まであれ程大き過ぎると思って手を焼いていた家が、私の頭
の中で一挙に小さくなった、その推理は的確に行くべき道を表し、事件の
核心(かくしん)を捉(とら)え、仮説は真実へと走り出した。

私の思考力は今全力回転している、
もう集中力を乱すものは何も無い、
そのまま思考の渦(うず)の奥へと奥へと一気に突き進む。

それならば1階のリビングやダイニング、キッチン等はどうだ・・・、
それこそいつも誰かが居て危なくてとても隠せたものではない、
それではいったい何処(どこ)なんだ・・・・、
中庭か?、駐車場?それともエントランスのどこか?
どんな所なら安心して隠せる???
人の居る所から遠くてめったに人の行かない所は?・・・・。

12、私の思考が止まった!!

相変わらず部屋の中をぐるぐる歩き回っている、家の中全ての財布が隠せ
そうな場所が私の頭の中で物凄(ものすご)いスピードで走っている。
しかしそのスピードにも私の思考は余裕があった、その時の私の集中力は
今考えても異常なほど逞(たくま)しいもので有った。
そしてある一箇所に来た時思私の考が止まった。

たどり着いた場所を目を瞑(つぶ)って探索(たんさく)して見る、そして結論
はほぼ間違いなさそうだ、と出た。
私の思考の終点に残ったのは勿論部屋では無い、しかし17歳のしかもこの
家のメイドだからこそ考え付きそうな場所である。

ここならば未だ嘗て(いまだかつて)鍵を掛けた事も無いし、いつでも出入り
が出来る、しかも滅多(めった)に人は来ない。
やっとここまで一応の結論を導いて来た、壁に掛かっている時計を見ると
夜中の3時半を既(すで)に回っていた。

取り合えずその場所へ行ってみる事にした。
その途中彼女の部屋の前を通った時、不思議なそして複雑な感慨(かんがい)
が一瞬(いっしゅん)私を包んだ、しかしその時はそれが何の意味を持つ感情
なのかは判らなかったが、私の心には強い印象を残した。

目的の場所へついて流石(さすが)に困ってしまった、暗い、その
暗闇(くらやみ)は小さな財布を探す私を諦(あきら)めさせるには余り有る
暗さであった、電気を点けて見たが、案の定歩く為だけの明るさしか確保
出来ない電灯の下ではやはり断念せざるを得なかった。

気を取り直し私は念の為にその近くの部屋を探して見る事にした、一つの
部屋へ入ろうとした時、ハットしてドアノブに掛けた手が止まった、その前に
しなければならない事をウッカリ忘れていたのである。

これは大変な見落としをしてしまった。
逸る(はやる)心に足音が邪魔をする、
急いで、しかし静かに、
それでも足音は大きく建物に共鳴しているがごとく響き渡る、
影が私を追い越し急がす様に先へ先へと行く、
それに追いついき追い越す、
やっとの思いで目指すドアにロックする、
極度の緊張から一気に安堵の境地へ飛び込んだ。

しばらくの間、っと言ってもほんの数秒であろう、ドアにより掛かっていた重い
体を無理やり引き離し再び前の場所へ、今度は重い足を運んだ。
犯人の心境としては、今極度に興奮しているはずである、普通なら寝付く事等
到底出来ない、部屋の中をチェックしている間に犯人が物音を感じて入って
来無いとも限らない。

もし入って来て私を見たとしたら、事の全てを理解するであろう、そうなれば
もう犯人逮捕は絶望的である。
改めて部屋へ入って見ると此処(ここ)では無いと判った、家具も無くガラン
とした部屋、これでは隠す気にもならない、念の為隠せそうな所を探して見
たがある訳も無い。

一旦部屋を出て近くに在るもう1つの部屋の中も探して見た、この部屋には
少し隠せそうな場所も有る、その1つ1つを丹念に探して見たがやはり財布
は出てこなかった、仕方が無いので朝に成るまで待つ事にした。

ダイニングへ戻ると壁の時計はもう直ぐ5時を指そうとしていた、あと1時間
後には自分の推理が正しいかどうかが判明する。

しかし待てよ、
何か見落としはないか?勘違いしていることは無いか?
今度は落ち着いて、自分の推理を振り返った、ゆっくりと、
細微(さいび)な点まで、見逃している点は絶対無いか?
取り返しの付かない様なケアレスミスは無いだろうか?・・・。
自分で立てた推理に自信の揺(ゆ)るぎは微塵(みじん)も無い事を確認
するまで、もう一度さっきの集中力を取り戻さねばならなかった。

事件の最初から全てを再確認し終えた時、ある種の脱力感が私の全身を
包んだ。
コップ一杯のビールがこの上なく旨かった。
12、私の思考が止まった!!
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