<<第三章『カルボ』>>
「よっしゃ、そんじゃぁ続けっとすっか。おいさんのヤマスぁ酒で大
失敗だがカルボは又別だ。」「カルボっちゃぁやっぱ人の名前けぇ?
それとも〜」 「おぉよ、あだ名だぁな、“禿げっ”て意味だ、年しゃ
(40)しじゅうそこそこだが髪の毛は殆どねぇ、プロたってへったくそ
でトーナメントにゃぁ出るが1回ぇも予選を通過した事ぁ無ねぇし、
俺っちも今はプロだけんどアマチュアの時代ぇだって負けた覚えが
ねぇっ位ぇだ。

最ぇ近もそうだ、俺いらの生徒が偶然カルボをひいきにしてた、ある
時サンタエレナでラウンドレッスンだ、まさかカルボが一緒たぁ
知ぁなあった、コースに行くてぇとカルボガいるじゃぁねぇか、あいつぁ
今度の事件の(後は)あたぁ俺っちにゃぁ近ずけ無くなっってらぁ、
誰か他ほかん奴と来てやぁると思ったら、なんでぇ一緒だって言う
じゃぁねぇか、そん時余り口ぃきかねぇで回ぁた、終わって見ると
奴さん又俺っちにベタ負けだ、今もってゴルフぁヘッタクソな野郎だ。

しかし昔しゃぁ奴さんたぁ妙に馬が合ってよ、付きえぇも10年以上は
あった。」 「ってぇと今は付き合ってねぇのけぇ、カルボさんたぁ?」
「そうなんでぇ、ある事件を切っ掛けに残念なんだけんど付き合えぇが
切れちまってぃ。」「どんな事ぁ有ったんでぇ、よっぽど重大ぇな事件が
有ったんだろうが?ヤマスのションベンの上行くんか?」
「国の違げぇ何んか、考げぇ方か習慣の違げぇ何んか、どうもそんとこ良く
解らねえんだがよ、実ぁこんな事ぁ有ったんでぃ。

俺っちも(今でこそ)ぃまんでこそゴルフショップ4件オープンすつ事ぁ出来た
ってこったが、ここまで来るにゃぁ色んなしなくったていい経験までしちまっ
たぁ、まあそれぁこん次ん話として。
ゴルフショップだって最初ぁ好きこのんで始めたぁ訳じゃぁねぇ。

ショップどころか仕事なんざぁこれっぽっちも考げぇちゃぁいなあったぁな、
だってそじゃぁねぇかぁ、考げぇて見ろぃ、長ぇ事っ家族ん為と諦めて蟻んこ
やって来たんだぁな、そろそろキリギリスになりきって好き勝手にさせて貰
おうと決めてフィリピンくんだりまんで来た詮けぇがねぇてもんよ、だろうが
ヨッチャン。

俺っちとつるんでたそんころんカルボぁ、そんなもん他ほかんプロと一緒
だぁなご多分に漏れずヤッパ飛びっきりの貧乏ときたもんでぇ、賞金は稼
げねぇ、ティーチングの仕事もめったにゃぁ入へぇっちゃこねぇ、しばらくん
間いだ俺っちが面倒見てたってすんぽうよ。

まんだ日本とフィリピンを行ったり来たりだったそん頃ん俺っちゃぁ、
カルボぁ欲しがるゴルフクラブぉ日本で調達しちゃぁ持ってってやった、
それを売ってカルボぁ結構儲けていた様だったなぁ。
そんな有る時、しとっ月っくれえフィリピンに来れねえ時が有ったんだ。
フィリピンに残して来たゴルフクラブも5万ペソ位れぇは有った。」
「カッツアンぁもうプロに合格してたんだろう?」
「そうさな、プロテストに合格した頃だったなぁ、俺っちはカルボに言い
残してった“残っているもんぁ売ってかまわねえが金ぁ銀行の俺っちの
口座に入れとけよ”。ところがドッコイこりゃぁ大きな間違ぇだってぇ。」

「解ってぃ、カルボん野朗そん金ぇ使けぇ込みやぁがった!、どうでぇ
ズボシだろうが?」 「当たらずとも遠からじだ、ヨッチャン、残念だ
けんど。」 「そんでカルボプロとはサヨナラしたって訳かい?」
「いや!実ぁまだその先ぁがあるんでぇ。

しとっ月ぶりでフィリピンに戻って見るってぇと空港まで迎けぇに来た
カルボん様子ぁなんか変だ、黙りこくって話しもしゃしねぇ、普段から
誰かと違ちゃってそんなに五月蝿ぇ方じゃあねえが今日はやっけに
おとなしいや、『どうしてぃカルボ、やけに元気がねえじゃぁねぇか、
体ん具合えぇでも悪りぃのか?』って聞くてぇと。

カルボがやっと重めぇ口ぃ開いた、すまねぇボスに話ぃする前ぇに
勝手な事っやって、残ってたゴルフクラブぁすっかり売れたが、そん
金を別のビジネスにつっ込んで回ぇ収すんにゃぁいく月か掛かる、
必ず返けぇすから待ってくれってな事った、永え付きえぇん達だぁう
まく行ってくれりゃいいがっと思ぇなぁら承知した。

そん後たぁカルボとの付き合えぇは普通に続いたんだが約束の期限
が近づくに連れカルボの様子がおかしいや、毎ぇんちの様に俺っちに
まとわり付いてぇたカルボが会う間えぇだを空ける様になりゃぁった。

さてぁ商売ぇがうまく行かなくって俺っちに返ぇす金ん工面できねぇな!
実ぁなぁ、俺っちはそん時点でホンタぁ金ぇ諦めてたんだぃ、しゃぁねぇ
や、もし言って来たら許してやっか、位ぇな事ぉ考ぇていたんでぇ」
「太っ腹だねえカッツアン、そんじゃあカルボプロたぁ分かれねぇで済
んだはずじゃぁねぇか?」
そしてどしてもカルボを許せなあった決定的な日が来やがったぃ。
そん前ぇの日カルボから金を返ぇす時きゃぁカルボんちで会うことっんなってた、
どうしても自宅に来てほしいと言われていた俺っちぁ約束の時間にカルボんち
へ1人で行った。待ってたカルボはコーヒーを出してから、18歳ぇの娘を呼んだ。
何でだ?と思ってぇと娘が予想もしてなかったブッタマゲル様な事を話し出しゃ
あった。

“(お兄さん)クヤ、ごめんなさい、今日銀行にクヤに返すお金をおろしに行った
帰りホールドアップに会って全部お金を取られてしまった。
俺っちぁ頭ぁ思いっきし棍棒でぶん殴られたようなショックだ、ショックぁホールド
アップの事じゃあねえぞ、何んもしらねえ娘まで巻き込みゃがってそこまで
芝居べぇして誤魔化そうとするかねぇ?
 
見え見えのうそを平気で、いや平気じゃぁねえかも知んねえけんど、ビックリした
ねえ、そしてそん時流石にカルボを諦めた。しばらく言葉も出なぁった、そして
“解あった、明日銀行の通帳を持って俺っちの家へ来い、引き出したんが本当
ならそんレコードが有るはずだ”

そ言ってカルボの家を出た、俺っちぁメッチャクッチャ思いっきし空しかった。
wグループからも除名だ。」「カルボたぁそれっきりか?カッツアン。」
カルボプロの腕前
極貧プロ
「まあ待てよ順々に話してやらぁな、それよっかヤマスの話が出たんで
ついでにその甥でプロのカルボってのが居るんだ、典型的なフィリピン人
気質を持ったこいつぁチョット可愛そうな羽目に成っちゃったって話を
しようじゃねぇか。

そん前ぇにヨッチャン、お前ぇたぁ永ぇ付き合ぇだぁらよっく解っちゃぁくれ
てるたぁ思っちゃぁいるが、俺ってぇ男ぁなんって肝っ玉ぁ小せぇ男なんだ
といつも嫌悪感てぇ奴に襲われちゃぁ反省ぇしてるんだが、どうもいけねぇ
やそん時んなると意気地が無くって、つくづく手前ぇの性分がいやんなる
時があんねぇ、今回ぇの話も俺いらの気性が災いしたってとこぉだ。」

「確かにカッツアンは強情んとこあんなぁ解る、でもよっ、腹ぁ真っ白でぇ、
ずるっかぁねぇし、情だってたんまり有らぁな、そんなに手前ぇを責めねぇ方が
いいや、誰だって悪りっとこの一つや二っつ持って生きてんだ、俺っちなんて
そんなもんじゃぁきかねぇや、三つも四つも五つも六つだ、!!、どうでぇ
たまげたろう!!。」 「ヨッチャン、いい奴だなぁお前ぇてやつぁ、ホンタぁ俺
よっか上だお前ぇの方が、ありぁとヨ。」
「冗談言っちゃぁいけねぇや、こっぱずかしくなる様な事言ってねぇで話ぉ
進めてくんねぇ」
大ボラ吹き野郎!!
フィリピン江戸っ子談義
「カルボも俺っちも同んなじゴルフコースの所属プロだ、全く顔を合わさねえって訳にぁいかねえけんど、
俺っちの姿を見るとカルボの野朗はスっとどっけぇ行っちまいやがるってのがしばらく続いたね。
でもねヨッチャン、そんあと今んまで5年の(間)えぇだ復帰のチャンスぁ何回ぇか上げたんだが・・・。

どうもあいつの性格っちゅうか国民性っちゅうか、“すまねぇ“のしとっこと(一言)が言えねぇんでぇ、俺っち
の方から許してやらぁって言えりゃあ済む事なんだがよ・・・」
「カッツアンの性格からヤッパ駄目だろうな〜、そんでもって“可愛えぇそうな奴”けい、カルボぁ。」
「ヨッチャン、もしかしたら俺っちも可愛そうな奴かも知れねえなあ。」

記 2005年9月
手前ぇの性分いやんなる
金ぁ諦めたぃ
サイドビジネスぁ高利貸しだ!!
「早っとちりな野朗だなお前めぇは、まだ終わっちゃあいねぇよぉ話しぁ、
続きが有らぁな続きが。もしカルボが使けぇ込んだとしたって日本円で
10万だ、勿体てぇねえが諦められねぇ金じゃぁねぇや。
そしてとうとう約束ん日が来た。

“カルボの野朗、頭痛てえだろうなぁ、早く楽にしてやっか”っと思ってた
とこに当のカルボがしょんぼりとやっち来てぃ。俺っちはどうでぇカルボ、
金ぁ出来たかい、ってぇと、“新しい仕事はうめぇ事っ行ってんだが金を
返けぇしまうってぇと資金の回ぁりがきかねぇ、済まねぇがもう少ぉし待
っちくれ、必ず返ぇす“、ってこってぃ、いってぇどんな仕事か言ってみな
って聴くとファイブ、シックスだと言ったなぁビックリしたねぇ。

こりゃぁ高利の金貸しだ、気の弱えぇカルボなんかに出来る仕事じゃあ
ねえ。カルボ、本当に返ぇせんのか?”大ぇ丈夫だ安全なとこんしか貸
してねぇから絶対ぇ返ぇせる。”じゃあ仕方ぁねえ、もう少ぉしまってや
っか、ってな事っになった。」

「それっから又持ってこねえって事ったろう、カルボんだんなもおしい事っした
もんでぇ、カッツアンぁ諦めてぇたてぇのに、スンマセンって白旗あげっちめぇ
ばパーん成ってたんにな〜」
「俺っちが最初に言った習慣の違げぇなんだよ、こっちの国じゃあそんな事つ
許してくれる奴つぁ誰一人いやしねえ、飛んでもねえ野朗だってんで警察に
突きつ出される位れぇが当ったり前ぇだ、こっちん国で5万ペソったらカルボの
半年分の収入より上だ。

カルボぁなんとか返ぇそうと思っていたなぁホントだろうよ、俺っちの気持ちなん
か解るはずぁねえんだ、不義理したら俺っちとも切られっちゃうと思ってもいた
だろうし。」 「次にも持ってきやしなかったんだろうが、そん時どうしたい、
カッツアン。」 「実ぁそれっからすぐチクリが入へぇってカルボぁファイヴシックス
なんざぁやってなあった、そりゃ嘘だっつう事ぁ解った、金ぁ全部バカラですられ
たそうだ。

俺っちが日本に居る時、ほかん日本人に連れて行かれて最初は勝ったそうだ、
そしてお決まりのコースを絵に書けぇたように走りやがって今ではソウトウな借
金をこしれぇちゃったらしいや。」
「成る程ねえ〜、そう言う事っかい、教えた日本人も罪な事をしたもんだぁ。
そんでカルボさんとはサヨナラって事だったんかあ〜」

「違げぇよヨッチャン、まだ最ぇ後の詰めが有らぁなこの話しにゃぁ。俺っちが
その話を聞いてどう思ったと思う、(可愛そう)けぇそぉな野郎だぁ、今度正直
に言って来たぁ許して楽にしてやっか、ほかにも借金が有るったって大ぇした
金じゃあねえ位れぇななぁは解ってる、まぁだそんな事ぉ考げぇてたんでぇ。