彼はAさんに次ぐフィリピンで2番目の生徒である、Aさんにティーチングしているのを
見て申し込んで来た、まさか駄目ですとも言えずティーチングを引き受けた、生徒が
増えていく切っ掛けとなった出来事でもあった。

当時のDさんの体型は一言で言うとズングリムックリ160Cm 80Kg程の体、ぱっと見
はとても不器用そうでこれは少し時間が掛かるぞ、と思ったのを覚えている。
最初のティーチングをした時の事である、ピッチングWさえスライスで打っていた彼の
ドライバーショットを見た瞬間私は思わず凄いなあと感心し たものである。
  我が親愛なる生徒達
20年目に開眼した生徒Dさん
正面の150Yの看板を目標に打つ彼の取ったアドレスの体は左45度を向いている、
そのアドレスから打ち出されたボールは体の向きよりもう少し左に飛び出し見事な弧
を描いて右へ戻って来る、ボールが落ちてからのランは左から右へと転がって行き
150yの看板を横切って止まった、飛距離155yのショットは何度打ってもそれ以上伸
びなかった酷いスライサーであった。







たまにスライスが掛からず引っ掛かったボールはそのまま左へ飛んで行く、どんなに
広いコースでもOB必至であろう。










彼の良い点は体型から考えられない位体が柔らかい事と、腕節が強い事、そしてとて
も器用である、これだけ揃っていれば大抵はもう少し上手く成って当たり前なのに彼は
全くのビギナー其のままであった。

しかも彼のゴルフ歴は何と20年以上に成ると言う、今までに正式にはティーチングを
受けた事は無いとは言うものの余りにも酷い状態である、何度も言う様だが彼はとて








も器用である、実はこれがゴルフスウィングを覚える上では時々邪魔になるとても困っ
た曲者でもあるのだ。

とにかくティーチングを始めると彼はとても真面目に取り組んだ、時には1週間に5日も
通ってきた、当時生徒も少なかった為一回のティーチングに3時間近くも掛けた事も
度々であった、彼の上達振りもAさん同様素晴らしかった。

今にして見ればAさんもDさんも共にゴルフに対して貪欲で上手くなりたいと言う気が前
面に出ていた、通ってくる回数も1回のティーチングに掛ける時間も今の生徒達とは比
べ物に成らない位多かった、私も今でこそ一回のティーチングに1時間しか掛けられな
い場合が多いが、その当時は生徒も少なく空きの時間が有れば2時間でも3時間でも
ティーチングが出来た。

最初の内、持ち前の体の柔らかさに加え器用さも手伝って彼の良い所が全て生かされ
スウィングを覚えるのにも余り苦労する事無く本当にスンナリト100を切ったのはティ
ーチングを始めて2ヵ月を過ぎた頃の事で有った、その後彼は前出の病気に掛かる、
最初の壁である、いよいよ来たかと思った私だが彼の場合は他の生徒達とと全く違って
いる点が有った。

当時90も前半で回る事が多く成っていたDさんが100を切れないと嘆く様にく成った、ス
ウィングで悪い所を指摘して直すと彼は全く抵抗無くスウィングの改良が完成して又素
晴らしい弾道のドローを打ち出す、彼はティーチングを始めてから一週間でスライスを卒
業し、もうその頃はドライバーショットも綺麗なドローで200Yを超えるショットも出る様にま
で上達していた。

しかしやはりコースでは100を叩いてくる、私にはその理由が解っていた、人間誰しも器
用な人ばかりではない、しかし本当に器用な人はいるもので教えることを片っ端からこな
してしまう、スウィングで最も難しいトップの位置まですぐ矯正出来てしまう、それがDさ
んであった。

最初の内彼はティーチングした事を素直に受け入れ、それを1つずつ確実に自分のスウ
ィングとして身に着けて行ったが3ヶ月も過ぎると、私の心配していた事が出始めた、私
は彼にティーチングをして直ぐの頃厳重に注意をした事がある。

それは「Dさん貴方は稀に見る器用な方です、その余りミスショットが出る度に自分でス
ウィングを変えて行ってしまう事の無い様にしないと、貴方のスウィングを維持する事も
又良くする事も難しく成ります、くれぐれもスウィングには気を付けて、決してその場凌ぎ
のスウィングに頼らず、基本に忠実なスウィングを常に心掛けましょう。」

しかしある程度打てる様に成ったDさんは私の忠告を忘れてしまってミスショットの出る
度に自分でスウィングをいじっていたそうである、その為基本のスウィングが判らなくな
りどうする事も出来なく成っていたのだが、ティーチングをすると直ぐ元の良いスウィング
に戻る、戻っては崩し崩しては戻すの繰り返しがしばらく続いた、彼の病気は彼の器用
さ故から出たものであった。

例えばこんなことが有った、彼の持ち玉はドロー、いつもならインサイド・アウトに抜けて
いくはずのクラブヘッドがややアウトからインに抜ける軌道でボールを引っ掛けて打って
いる、私がそれを指摘すると彼は、解ってはいるのだがインサイドからアウトに抜くと
ボールがプッシュアウト気味になるので自分で調整したのだ、と言う。

ボールがプッシュアウトすると言うインサイド・アウトの軌道で打たせて見ると、手首の返
しが足りない為ボールが捕まらない、プッシュアウトするのは当たり前だ。
彼の場合は一事が万事この調子である、兎に角小手先でボールを操ろうとする、その為
自分のスウィングを見失ってしまう、器用な人の陥り易い最大の欠点でもある。

たまにレッスンラウンドもしたが彼は決まって100を切れなかった、私が最大のプレッシャ
ーの元らしく、80を切ろうとしていた頃さえ私とラウンドした後彼の顔に笑いが出る事は1
度たりとも無かった。

器用な人をティーチングするのはとても難しい、ある程度まで上達が進むと必ずと言って
良い位自らスウィングを崩して行く、どうもゴルフは少々不器用な人の方が向いている様
な気がし無いでもない、基本的にはドライバーからウェッジまで全く1つのスウィングであ
る。

もしクラブによってスウィングを変えなければならないとしたら、ゴルフが途轍もなく難しく
なって少なくとも私はゴルフなどやらなかった、たった一つの良いスウィングを淡々と身に
着ける、しかしこの地道で根気の要る行いこそ最大の上達法と言え無いであろうか。
と言って、もし器用な人がその気に成ったら途轍もなく上達するだろうとも思えるが・・・・。

記2007年1月